カポジ肉腫関連疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
アンケート結果
HIV に合併するHHV-8 関連疾患の発生および治療実態調査
-全国HIV診療拠点病院アンケート調査2016年-

研究分担者: 照屋勝治(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
A 研究目的 ART時代以降のHHV-8関連疾患の発生動向の変化を把握する。
B 研究方法 平成29年1月8日から2月10日の期間に、全国HIV診療拠点病院に対して質問票の送付によるアンケート調査を実施した(資料1)。2008年1月1日から2016年12月31日までの期間で各施設で経験したHHV-8関連疾患(カポジ肉腫、HIV関連多中心性キャッスルマン病(MCD)、KICS:KSHVassociated inflammatory cytokine syndrome)について調査を行った。
C 研究結果 アンケート送付施設:383施設
回答施設:156施設(回答率:40.7%)
集計患者数:カポジ肉腫 232例、MCD 23例、KICS 15例

1. カポジ肉腫(KS)

1) 2008年~2016年までの発生状況

 KSの病変部位別の発生数(重複あり)を図1に示す。2008年~2016年の期間を3年毎に区切った積み上げグラフとした。重複を含め全558病変が集計された。皮膚病変(n= 233)が最も多く、続いて消化管病変(n=127)、口腔咽頭病変(n=98)、気管支・肺病変(n= 53)の順に頻度が高かった。各期間毎の報告病変数は、2008-2010年 205件、2011-2013年 184件、2014-2016年 169件と経年的な減少傾向が見られた。

図1. 病変部位別の発生数
図1. 病変部位別の発生数

2) 病変部位別罹患頻度の経時的変化

 皮膚病変は全例で見られる病変部位であると想定して、皮膚以外の病変部位の罹患頻度につき、経時的変化を検討した(図2)。消化管病変が51-57%、口腔咽頭病変が39-46%、気管支・肺病変が21-25%で見られ、2008年から2016年まで病変部位別の発生頻度には大きな汎化はなく、ほぼ一定であった。

図2. 皮膚以外の病変部位の罹患頻度の経時的変化
図2. 皮膚以外の病変部位の罹患頻度の経時的変化

3) リポゾーマルドキソルビシン(ドキシル)の治療効果

 ドキシルによる治療が行われていたのは127例であった。全症例数を233例(全例で皮膚病変は見られたと仮定)とすると、54.5%の患者に対してドキシルによる化学療法が行われたと推定された。診断後1年時点の有効率判定は、90%で病変の縮小効果を認め「有効」と判断されたが、10%は不変もしくは病変の増大を認め「非有効」と判断された。
 「非有効」と判断された13例のうち、3例は腫瘍縮小効果を認めず、2例は治療経過中に耐性化したと判断されていた。「下腿浮腫が難治」が非有効判定の最も多い理由であり、13例中10例で見られていた。ドキシル非有効例13例のうち4例で、パクリタキセルによる治療が行われていた。

図3. ドキシルの治療効果
図3. ドキシルの治療効果(診断後1年時点)

4) 病変部位別の診断後1年時点の予後

 全558病変のうち、診断後1年時点の予後が判定できたのは463病変(82.9%)であった。内訳は、皮膚病変185例、消化管病変110例、口腔咽頭病変85例、気管支・肺病変45例、その他38例であった。治療効果を図4に示す。
 皮膚病変の4.9%が不変~無効であり、下腿浮腫などの難治例であると推測された。他の病変部位に比べて、気管支・肺病変の予後不良が際立っており、11.1%が無効、4.4%が不変と判定された。本アンケート調査では生命予後までの調査は行っていないが、気管支・肺病変の無効例は、病変の性質上から死亡した可能性が高いと推定される。

図4. 病変部位別の診断後1年時点の予後
図4. 病変部位別の診断後1年時点の予後

2. HIV関連多中心性キャッスルマン病(MCD)

 23症例が集計された。結果を表1に示す。
 CD4数は後述するKICSに比べて高値の例が多く、100/μL未満は3例のみで、16例(69.6%)は200/μL以上のCD4数であった。19例(82.6%)はMCD発症時にすでにARTが導入されており、ART未導入例の発症は4例(17.4%)と少なかった。すなわち、MCDはART導入後で、かつCD4数がある程度回復した症例において発症していた。
 生命予後については、23例中7例(30.4%)がMCDにより死亡しており、併発した悪性リンパ腫による死亡3例を加えると、10例(43.5%)が死亡しており、生命予後は極めて不良であった。一方で、治療内容にリツキシマブが使用された11例ではMCDによる死亡は1例(9.1%)のみであり、悪性リンパ腫併発による死亡を含めた全死亡も3例(27.3%)で、リツキシマブによる治療が比較的予後良好と関連していることが示された。

表1. MCDの治療内容と予後
表1. MCDの治療内容と予後

3. KICS:KSHVassociated inflammatory cytokine syndrome

 15症例が集計された。確定診断は2例と少なく、13例が臨床診断であった。「生検病理によるMCDの除外」が出来なかった例が多いと推測される。結果を表2に示す。
 CD4数はMCDに比べて低値例が多く、11例が100/µL未満で、13例(86.7%)は200/µL未満であった。82.6%の症例がART導入例だったMCDと比較して、KICSでは10例(66.7%)がART未導入例からの発症であった。すなわち、MCDとは異なり、KICSではART非導入例で、かつCD4数が200/µL未満の免疫不全例で発症している傾向があった。
 生命予後については、追跡できていた14例中1例(7.1%)がKICSにより死亡しており、併発した悪性リンパ腫による死亡1例を加えると、2例(14.3%)が死亡していた。死亡率は低いとはいえないが、極めて類似した病態を示すMCDと比較した場合の予後は比較的良好であり、今回の集積症例でも、14例中7例(50%)はKICSに対する治療を行わず、恐らくはARTのみで軽快していると考えられた。

表2. KICSの治療内容と予後
表2. KICSの治療内容と予後

4. まとめ

  今回の調査で以下の実態が判明した。
 ・KSの発生頻度は2008年以降、2016年までほぼ一定であった。
・皮膚以外の病変としては、消化管病変(51-57%)、口腔咽頭病変(39-46%)、気管支・肺病変(21-25%)が多かった。
・ART時代においても、KS症例の10%でドキシル治療無効例例が存在していた。
・ドキシル無効例のKSに対して、パクリタキセル(保険適用外)が臨床現場ですでに使用されている。
・気管支・肺KSの予後は他の病変部位と比較して予後不良であり、現在もKSによる死因となっている可能性が示唆された。
・MCDは予後不良であり、併発した悪性リンパ腫による死亡を加えると死亡率は43.5%であった。治療におけるリツキサンの使用が予後良好に関連している可能性が示唆された。
・KICSの死亡率はMCDに比較すると低いが、併発した悪性リンパ腫による死亡を加えると死亡率は14.3%であり、予後良好とは言えない結果であった。今回、集積された症例の多くは、診断基準を満たさない臨床診断例であった。KICSは疾患概念が比較的新しく、臨床医によって疑わなければ診断は難しいため、本症と疑われずに見逃されている例もあると考えられる。