カポジ肉腫関連疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
肺カポジ肉腫
1. 肺カポジ肉腫(KS)は致死的となりうる
KSは比較的頻度の高いエイズ指標疾患であるが、皮膚病変のみの場合にはARTによる免疫再構築のみで治癒し、必ずしも全例でリポゾーマルドキソルビシンによる化学療法を必要としない予後良好の疾患である。しかしながら、肺におけるKS病変は、病変部位がしばしば両側びまん性であり、多剤併用抗HIV治療(ART)後の免疫再構築症候群として病変の増悪が見られたり、時には誘因なく急速に悪化して呼吸不全から致死的となる事もある注意が必要な病変部位である。
2. 症例提示
40代男性
- 4ヶ月前より、37度台の発熱と咳嗽、および食欲不振。約6kgの体重減少を認めていた。
- 2週前より呼吸苦(Hugh-Johns II度)が出現し、健康診断で胸部異常陰影を指摘。
- 近医受診し、HIV感染が判明。
胸部X線上、両肺野に異常陰影を認め、胸部CTでは両上肺野を中心に不整型の浸潤影、結節、粒状影を認めた。カポジ肉腫と思われる皮膚病変が両脚、体幹に散在。左右の腋下、鼠径部に多数のリンパ節腫脹と左下腿のリンパ浮腫を認めた。
CD4数 10/μl。血中HHV-8-PCR:検出限界未満(<200copies/ml)。
- 典型的な胸部画像所見(写真1, 2)および皮膚カポジ肉腫の存在から、カポジ肉腫の肺病変が疑われた。
- 気管支内視鏡検査では、気管、気管支粘膜に異常を認めず、rB2, lB4, B5より気管支肺胞洗浄、lB3cよりTBLBを実施した。TBLBで採取された3検体のすべてから特徴的な紡錘形細胞の密な増殖を認め、免疫染色の結果と併せて肺カポジ肉腫と診断した。
- 血液およびBALFのHHV-8-PCRはいずれも検出限界未満(<200copies/ml)であった。核医学検査では、Gaシンチで全く取り込みを認めず、FDG-PETで肺および深部のリンパ節に集積を認めた(写真3)。
- Liposomal doxorubicin(ドキシル(R))による治療を開始した。治療開始後1週間で肺野病変の縮小が確認された。その後、ドキシルを2週間毎に4クール実施したあと、ARTを開始した。抗ART開始後は免疫再構築症候群による悪化を認めず、経過は良好であった。ドキシルの追加投与なしで病変はほぼ完全に消失した。
3. 肺カポジ肉腫について
カポジ肉腫はHIV患者で最も頻度の高い新生物であるが、一般的に皮膚病変が死因となることはまずなく、皮膚病変のみの予後は良好である。しかしながらカポジ肉腫症例の約半数では深部臓器の病変が認められ、特に消化管に頻度が高く、肺のKSではしばしば死因となる点に注意が必要である1) 。ART時代にあっても、肺病変が合併している場合には予後が悪いという報告がある。肺病変のある25例は肺病変のない280例と比較して、5年生存率がそれぞれ49%、82%と有意に予後が不良であった2) 。リンパ節病変も高頻度に見られ、全身、特に頚部にリンパ節腫大を呈する。肺カポジ肉腫を疑った場合には気管支内視鏡検査を実施し、TBLBを実施することで確定診断が可能である。その際、しばしば気管、気管支粘膜にカポジ肉腫に特徴的な病変が見られるが、同部位の生検は出血のリスクが高いため、生検は勧められない。
肺病変で縦隔リンパ節腫大や胸水が認められる症例や、リンパ節病変の強い症例では、播種性抗酸菌感染症や悪性リンパ腫との鑑別が重要となるが、GaシンチやFDG-PET(あるいはTlシンチ)を併用することでこれらの可能性を除外することがある程度可能である。カポジ肉腫ではGaシンチでは集積を認めないため、集積を認める抗酸菌感染や悪性リンパ腫との鑑別に有用であり、TIシンチやFDG-PETで集積を認めるため、深部臓器の病変検出に優れる。特にFDG-PETは感度に優れており、当科では無症状の椎体病変がFDG-PETで検出できた症例も経験している。
(肺カポジ肉腫の画像所見)
胸部単純X線での典型所見は、両側性びまん性の、特に気管支血管束周囲に強い辺縁不整の結節、あるいは辺縁不正の浸潤影である。胸水が30%、肺門および縦隔リンパ節腫大も10%程度で見られるとされている。
胸部CTでの早期の変化は気管支血管周囲の間質肥厚であり、進行すると辺縁不整の結節あるいは腫瘤影を呈し、小葉間隔壁の肥厚も見られるようになる。表1にHRCTで見られる画像所見を示した。
写真4,5に今回の症例のHRCT画像を示す。①辺縁が不整で周囲の間質へ病変が線状に伸びる結節影~腫瘤影、②小葉間隔壁および胸膜の肥厚、③胸水の存在、④気管支血管束周囲に強い病変、など特徴的所見が認められている。
(肺カポジ肉腫の免疫再構築症候群について)
カポジ肉腫はART後に免疫再構築症候群による悪化が見られる例があることが知られており、肺カポジ肉腫でもART開始後の急速な増悪が見られる例があり、予後が悪いという報告がある3) 。ART導入前に2-3クールのドキシルで治療を行ってのちに、ARTを導入し、その後に免疫再構築症候群による増悪が見られた場合には、ドキシルによる追加治療を行う必要がある。
(most common and helpful in differential diagnosis) | Irregular and ill-defined peribronchovascular nodules Peribronchovascular interstitial thickening |
(most common findings) | Interlobular septal thickening Pleural effusions |
(other) | lymphadenopathy |
参考文献
- Nasti G, Talamini R, Antinori A, et al. AIDS-related Kaposi's Sarcoma: evaluation of potential new prognostic factors and assessment of the AIDS Clinical Trial Group Staging System in the Haart Era--the Italian Cooperative Group on AIDS and Tumors and the Italian Cohort of Patients Naive From Antiretrovirals. J Clin Oncol. 2003 Aug 1;21(15):2876-82.
- Palmieri C, Dhillon T, Thirlwell C, et al. Pulmonary Kaposi sarcoma in the era of highly active antiretroviral therapy. HIV Med. 2006 Jul;7(5):291-3.
- Godoy MC, Rouse H, Brown JA, et al. Imaging features of pulmonary Kaposi sarcoma-associated immune reconstitution syndrome. AJR Am J Roentgenol. 2007 Oct;189(4):956-65