カポジ肉腫関連疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
ごあいさつ
エイズ動向委員会の調査結果では、日本における年間の新規HIV感染者数、および,エイズ患者数はそれぞれ、約1,000件、400件程度で2008年頃から横ばい状態が続いている。抗HIV療法の進歩により、エイズ患者の生存率はこの20年で大きく改善しており、累積患者数は2万を超える。HIVの感染経路として日本では以前から男性同性間性的接触(MSM)が多く、現在でも新規HIV感染の7割以上を占める。理由はよく分かっていないが、エイズ患者ではカポジ肉腫はMSMにほぼ限定して発症し、非MSMの患者にはほとんど発症しない。カポジ肉腫はカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV, HHV-8)の感染が原因であるが、HHV-8はカポジ肉腫以外にも一部の特殊なリンパ腫やリンパ増殖性疾患にも関連し、これらはみな、エイズ患者ではほとんどMSMにしか発症しない。現在ではエイズ患者の5-10%がカポジ肉腫を発症しており、エイズ患者に発症する悪性腫瘍としてはリンパ腫と並んで頻度が高い。他の日和見感染症は漸減傾向にあるが、カポジ肉腫とリンパ腫の発症率に減少傾向は見えない。こうした中で、本研究班は、HHV-8関連疾患について、発症機構の解明、予防、治療に結びつく基礎研究と共に、日本におけるカポジ肉腫、HHV-8関連疾患の現状把握と治療方針の確立を目指し、スタートした。
エイズ拠点病院に対する全国調査では、カポジ肉腫はARTのみで消退する症例もある一方で、コントロール困難な症例が少なからず存在し、各施設で診断、治療に苦慮する症例が少なくないことが分かった。ART導入を考慮した、確立したプロトコールが存在しない点や、治療薬の選択肢も少ない点も問題であった。これらの調査結果を踏まえ、経験豊富な施設で行われている診断、治療の実際を「手引き」としてまとめ、全国の各医療機関に配布し、要約をエイズ学会誌に掲載した。今回、さらにカポジ肉腫の診療について理解を深めるための補助資料を作成し、よりアクセスを容易にするために「手引き」とともにこのホームページで公開することにした。「手引き」の他に、本研究で集積された貴重な疫学データについて、できる限り情報提供し、診療上の問題点と解決の糸口を見つけられるよう、情報を集約していきたいと考えている。
アンケートには全国のエイズ拠点病院の先生方にご協力をいただいた。この場を借りて深謝申し上げたい。診断や治療は日々進歩していくものであり、内容に関しては忌憚のないご意見を賜れば幸いである。
HHV-8関連疾患の理解や診療に少しでも役に立てれば幸いである。
平成30年3月31日
日本医療研究開発機構エイズ対策実用化研究事業
「カポジ肉腫関連疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究」
研究代表者 片野晴隆