カポジ肉腫関連疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
【仮想症例1】

40歳代、男性

約半年前に、足の指の部分に紫紅色の皮疹があることに気づいた。その後、足首にも同様な皮疹が数個出現してきた。皮疹は、痒みも疼痛もなかったことから、そのまま経過をみていた。2ヶ月前からは、胸部、側腹部にも黒褐色の皮疹が散在してみられるようになり、それぞれの皮疹も増大傾向となってきたため、心配になって近くの大学病院の皮膚科を受診した。皮膚生検により、カポジ肉腫と診断されたことから、HIV検査を行ったところ陽性と判明。エイズ拠点病院への紹介となった。

【症例1の経過】

血液検査で、CD4数150/μl、HIV-RNA40000copies/mlであった。皮膚にカポジ肉腫の病変が散在していたが、特に集簇はしておらず、浮腫も認めなかった。口蓋部にカポジ肉腫を疑う発赤・膨隆を認めたが、各種検査にて内臓病変は指摘されたかった。

カポジ肉腫は、軽症の皮膚病変だけであったことから、抗HIV療法(ART)を開始して経過観察することにした。その後も外来通院での治療を継続したところ、カポジ肉腫の皮疹は徐々に退色傾向となっていった。


背中の皮膚カポジ肉腫

【症例の解説】

1.身体所見のポイント

カポジ肉腫は皮膚に最も多く発症し、頭頸部、体幹部、四肢などに、典型例では径数mmから数cmの紫紅色から黒褐色の皮疹を生じる。そして、進行とともに増加・拡大していき、膨隆するものも多くなる。カポジ肉腫は、背部、下腿、足趾、足底など、全身の各所に出現することから、全身の慎重な観察を必要とする。

また、口腔内も好発部位のひとつであり、特に口蓋部や歯肉に発生することが多い。さらに、喉頭部に発症した場合には、浮腫によって気道狭窄を起こすことがあり、致命的となる可能性もあるため注意が必要となる。したがって、カポジ肉腫による皮膚病変を認めた場合には、日常診療で見落としやすい口蓋部や歯肉も含めた、口腔内の観察も慎重に行うことが大切である。


口蓋部のカポジ肉腫


歯肉部のカポジ肉腫

2.カポジ肉腫の病変部位

駒込病院で2000年〜2016年末に診断したカポジ肉腫105例の調査では、主な発症部位は、皮膚81例(77.1%)、消化管44例(41.9%)、口腔内42例(40.0%)、気道・肺9例(8.6%)、リンパ節8例(7.6%)であり、皮膚病変を持たないものは24例(22.9%)であった。

カポジ肉腫による皮膚病変を認めた場合には、口腔内も十分に診察することが大切である。さらに、内臓病変の有無を確認することも必要となる。また、カポジ肉腫は皮膚の悪性腫瘍というイメージが強いが、内臓病変のみという例も少なからず存在する。

3.カポジ肉腫と抗HIV療法(ART)

カポジ肉腫においては、抗HIV療法(ART)による治療効果も示されており、カポジ肉腫に対する直接的な治療の選択肢のひとつと考えられるようになっている。したがって、軽症のカポジ肉腫であればARTの開始のみで経過観察することも可能である。しかし、ARTのみでは進行を抑えられないような例もあり、浮腫を伴い急速に進行する例、肺病変や喉頭病変の合併例などにおいては、化学療法を併用することが推奨される。ARTによる皮膚病変の改善には、一般的には比較的長い時間を要する。改善がみられる場合には、腫瘍サイズが周囲から縮小するのではなく、次第に中央部より平坦化しながら退色傾向となっていくことが多い。

4.皮膚病変と化学療法

カポジ肉腫による軽症〜中等症の皮膚病変では、ARTの開始だけで改善していく例も多い。しかし、皮膚病変が四肢や顔面などに集簇すると、浮腫を生じて疼痛を伴うこともある。このような浮腫や疼痛の強い例、ARTのみでは進行が抑えられない例、全身へ急速に拡がる例などでは化学療法の開始を検討する。カポジ肉腫に対する化学療法においては、リポゾーマルドキソルビシン(PLD)単独療法が中心となっている。